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「デザイナーズ住宅プロジェクト」建築家・宮下信顕氏×アイダ設計

2018年5月にスタートした、建築家監修のデザイナーズ住宅プロジェクト。

価格追求の他に、他社との差別化を図る強みが必要だと考えたアイダ設計は、数々のコンペで入賞実績をもつ建築家・宮下信顕氏とタッグを組むことを決める。

最初に手掛けた千葉県の「FU-GA戸張」、そして83棟に及ぶ壮大な街並みづくりとなった茨城県の「AMISORA」。これらに代表されるデザイナーズ住宅のプロジェクトは、アイダ設計の家づくりに対する価値観を一変させる、大きな挑戦となった。

今、変わらなければいけないという思い

建築家・宮下信顕氏
建築家・宮下信顕氏

始まりは、2017年6月。

宮下氏と初めて対面するこの日、新規プロジェクト担当となったアイダ設計・後藤は大きな決意を固めていた。

「創業から40年が経とうとしている今、少子化により市場は縮小し、競合他社との価格争いも激しさを増している。このまま低価格だけを追求していても先はない」。

会社が変わらなければいけないときだった。

柔らかい笑顔をたたえ姿を現した宮下氏だったが、彼もまた密かに熱い思いを抱えていた。

「世の中に溢れている、単調で代わり映えのしない街並み。建築家一人では、一つひとつの家をカッコよくすることはできても、街並みを変えることはできない。20年間ずっと違和感を抱いてきた日本の住環境を、アイダ設計さんとなら変えることができるのではないか」。

そんな思いを込めて、初対面のこの日、宮下氏はすでに企画書を用意していた。互いの危機感が期待に変わる。協業が決まるまでに時間はかからなかった。

その土地でしかあり得ないコンセプト

FU-GA戸張

プロジェクトのシンボルとなる最初の土地に選ばれたのは、千葉県柏市戸張。

宮下氏はまず、その土地に大きな付加価値を与えることで、住宅の価値を高められないだろうかということを考える。

土地に合わせたコンセプトを打ち出すことで、土地や建物につけられた値段以上の価値を生み出す。そのためには土地がもつコンテクスト(文脈)を丁寧に読み取る必要がある。

1年に及ぶ試行錯誤と挑戦の日々が始まった。

アイダ設計がもつコストへのこだわりを最大限に活かしたいと考えた宮下氏は、ただ豪華にするのではなく、限られたリソースで大きな価値を生む方法を探る。そこで目をつけたのが、建物の外構部分だった。

――ワクワク感を生む壁を一枚立てる。

「壁を立てることによって、これまでただの余白になっていた庭にリビングルームが拡張し、外からはうかがい知ることのできない領域が広がる」。

この壁の効果を、宮下氏は普段から建築に取り入れているという。住む人の暮らしを豊かにし、訪れる人にワクワクした気持ちを抱かせるためには、家の内と外を柔らかく区切る魅力的な壁が必要だった。

宮下氏は初回の提案を終えるとすぐに、柏という土地の歴史を探り始める。

――柏はかつて交通や文化の重要な拠点であったこと。そして、戦国時代が近くなると防衛の拠点になり、手賀沼から敵が攻めてきてもすぐにわかるようにと城が築かれたこと。

今回取り掛かっている土地が城の跡地であることを突き止めた宮下氏は、「武家屋敷」をコンセプトに据えた。そして戸張という地名から、平安時代に見られたような、柔らかく空間を仕切る布「帷(とばり)」をイメージして壁を立てようと決めたのだった。

ただやみくもに土地の歴史を辿るのではない。一枚の壁を立てるのが必然である、と思えるストーリーを探していたのだ。お客様が「その街に暮らす」ことを誇りに思えるようにと、街の歴史をもとに考えられたコンセプトに、後藤は言葉を呑んだ。

物語のピースを積み重ねる

左からアイダ設計の後藤、中川、小川

宮下氏のこだわりは、これまでのアイダ設計の常識を大きく覆すものばかりだった。

武家屋敷というコンセプトのもと、玄関のタイルや家の基礎となる部材の色は、これまで使用してこなかった黒色を採用。外構部分に立てられた壁は、通常では使用しない外壁用のモール材を転用することで、シンプルさとデザイン性を追求した。窓の高さもできる限り揃え、光を取り入れるという目的だけでなく、外から見た美しい佇まいにもこだわろう、と宮下氏はアイデアを提供し続けた。

技術的に困難なことや、これまでにやったことのない提案の数々に、担当者や現場にも驚きと困惑が広がる。設計担当の中川は、宮下氏との話し合いと、他部門の社員との調整に奔走した。

宮下氏からのアイデアに最適な部材を探し出し、自社の施工方法で実現できるものを図面に反映し、現場の声も聞きながら進める。設計部門や建設部門の理解と協力があって、ようやく実現したのだという。

「一つひとつのこだわりが積み重なって初めて、一つの物語が完成する」

宮下氏の家づくりに懸ける思いの強さが、次第にプロジェクトに関わる皆に伝わっていた。

阿見町に北欧の街並みを

AMISORA

もう一つ、宮下氏と担当者たちにとって印象深いプロジェクトとなったのが、茨城県阿見町の「AMISORA」だ。

宮下氏のもとに舞い込んだのは、「阿見町に北欧風の家を建てる」「太陽光発電を標準装備する」この二つの条件を両立するという難しい依頼。二つの条件を一つのストーリーでつなげるというゴールを見据えて、宮下氏は阿見町の歴史を紐解いていく。

――世界を股にかけた飛行家リンドバーグが、大群衆に囲まれ初めて日本に降り立ったのがこの阿見町であったということ。リンドバーグはスウェーデン移民の家系であったこと。

「欧米、ひいては北欧からの文化と日本が初めて出会った場所」として、阿見町が北欧を語るに相応しい土地であると突き止めた。そして「常に意識は阿見の空に向かっていた」のだと、太陽光発電を標準装備することにストーリーを持たせた。

さらに宮下氏は、建築の分野にとどまらず、広告に使用する写真の構図やキャッチコピー、ロゴやフォントに至るまで、家に関わる全ての要素にアイデアを出す。

販売企画に携わった小川は「建物に込められたストーリーが、間違いなくお客様に伝わるように」という宮下氏のこだわりに心を打たれたという。「北欧とつながりをもった空の街」から「AMISORA」というネーミングを掲げ、広告制作にも熱が入る。

付加価値とは、建物のデザインに工夫をして魅力的に見せることだけではない。「この街並みと暮らしたい」と思える空気感をつくることも同じように重要なのだと、身をもって知った瞬間だった。

この先一緒にやれることはまだまだある

宮下氏の建築事務所にて

何度も話し合いを重ね、試行錯誤を繰り返してようやく完成したプロジェクトに、今度は宮下氏が言葉を失う。想像を遥かに超える出来だった。無理を承知で様々な提案を続けてきた宮下氏は、アイダ設計からの“返答”に、この先一緒にやれることはまだまだある、と期待を膨らませた。

宮下氏監修によるデザイナーズ住宅プロジェクトは、その舞台となる土地ごとの歴史や文脈を反映し、それぞれの土地でしかあり得ない家として大きな価値を提供してきた。

そこに暮らす人の生活までをも読み解き、人生をデザインする宮下氏のこだわりは、これまでのアイダ設計の家づくりに対する価値観を大きく変化させた。新たに発見した手法を次のプロジェクトにも展開しながら、住宅に付加価値を生み出すという挑戦はこれからも続いていく。

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